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短編小説・私は『のえ』


私は『のえ』 (二)

 ある日曜日の朝食時、妻が私の手の甲をみて、
「あなた、その手どうしたの?」と呆れ顔で訊く。
「のえに噛まれた」
「あなたのことだから、猫にちょっかいを出してたでしょう」
 私は自分の手の甲をしげしげと眺め、のえが噛みつき、グイグイと力を入れてきた感触を思い出していた。
「私のことはいいんだけど、お客さんに怪我させるとまずいんだよね……」
 私は独り言のように呟いた。
 昨日、事務所で仕事の打ち合わせをしていると、知らない間に「のえ」がお客さんの隣にきて座っている。それに気がついたお客さんが「猫をお飼いですか。私も猫が好きでねぇ」といいながらのえの頭を撫でようと手を出した瞬間、のえの手が飛んできた。お客さんは痛いと云って手を引っ込めた。私が注意する間もなかった。「よく家の猫に引っ掻かれていましたよ」と、意にも返さない様子で事なきを得たからよかったものの――お客さんによってはトラブルになる。
 もう一つの頭痛の種は私の仕事の邪魔をすること。猫が私に警戒心を持たなくなったのはうれしいことだが、書類の上にはあがってくる。パソコンのキーボードの上では座る。その度に仕事が中断する。ジャコで釣って猫に退いてもらうのだが、どうもこの方法が失敗のようだった。私に慣れてきたのではなく、餌を求めての猫の行為である。だが猫に爪をたてられずに退かす方法は私にはこれしか浮かばなかった。

 事務所に出勤するといの一番にすることは猫の糞尿の始末。幸いなことにのえは決めた場所以外では用足しをしないので、これには助かる。
 すっかり春めいた3月の下旬、日課になっている糞尿の始末をしようとすると糞はしているが、尿用のペットシーツはきれいなままである。水を飲む量が少なかったのかとその時は意にも返さなかった。ところが翌日もその翌日も指定の場所に尿だけしていない。いくら何でも3日もしないはずはない。私は事務所内をくまなく点検したが、どこにも尿をした痕跡がない。事実、のえはこの3日間尿をしていないとすれば病気かもしれないと不安になった。そのとき、私の足裏に冷たいものを感じた。絨毯をめくると50センチ四方に染み跡がついている。絨毯の表面は10センチ四方それに染みが目立たない色合いで見落としていた。私は慌てて絨毯の縁をはぐった。壁際に3カ所同じように染みがある。急に尿の臭いが鼻をつきだした。今まで臭わなかったのが不思議である。せっかく用足しのしつけができていたと思っていたが、いちからやり直しかと思うと気が重くなる。とにかく絨毯に染みこんだ尿を拭き取り、臭いを消さなければ同じところにする習慣がついてしまう。早速私は絨毯の裏表にトイレットペーパーを敷き猫の尿を染みこますようにした。そしてエアコンを30度に温度設定をして家にドライヤーを取りに帰る。午前中はこの騒動で仕事にはならなかった。

 翌日、期待と不安の入り交じった気持ちで事務所に行くと、まさしく期待は裏切られた。尿用のペットシーツはきれいなまま、となると尿をした場所を見つけなければならない。私は壁際の絨毯の上を手で押さえていった。案の定、私の手に反応が……染み後は見事1メートル間隔である。こんなことに関心している場合ではない。毎日この状態では発狂しそうだ。それに事務所内が臭くなってきた。猫の尿の独特の強烈な臭いは完全に除去できない。
 親しい友人が事務所にやってきて、
「事務所が変な臭いがする。何の臭いだい?」
 私の鼻は麻痺してそれほど苦にならなかったが、入ってきた客は敏感に反応する。友人が帰った後、早速消臭剤を買いに行った。店で消臭剤を詮索していると猫の近寄らない消臭剤が目にとまった。とにかく試してみないと効果がわからないので3種類買ってきた。早速試してみるが、スプレーした一時は消臭剤の香りで紛らわされるが、その香りに慣れてくると猫の尿の臭いが鼻に突きだす。消臭効果は期待できない。猫にあたってもこの問題が解決する訳でもないが、私の前を何食わぬ顔ですり抜けていく猫が憎らしくなる。
 残された望みはただ一つ、猫が近寄らないという消臭剤。この日の仕事を終え、猫が用足しをしそうな絨毯の隅々に必要以上にスプレーして帰ることにした。

 猫が我が事務所に来てからは仕事のことより猫のことで頭の中が半分支配されている。今朝も昨日のスプレー効果に半分期待しながら朝食をとっていると、妻が最近出かけるのが早いのねと、皮肉めいたことをいう。子供の頃、ウナギ捕りの仕掛けを翌朝早くウナギが捕れていないか楽しみで川に行った心境に似ている。

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[2011/02/24 08:40]      [ 編集 ]















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